2014年8月4日月曜日

POPEYE(ポパイ)新機軸が抱える矛盾とは


POPEYEのここ最近の編集方針が変わってきたなと、興味深く眺めていたら、Amazonにこんなレビューが書かれていた。



どうしたポパイ 2014/7/12
無地の白Tシャツに、裾をまくった太めの軍パン。
半端丈のチェスターコートに、白い靴下、ぶっとい黒ぶち眼鏡。
リニューアル後のポパイが主張した「シティボーイ」スタイルが街の
お洒落さんにもたらした影響は多大だったと思う。
しかしここ数号のポパイは冒険だの海外だの、そんな功績を忘れたか
のような内容ばかり。読者置いてけぼりの内容は、外から見ていて
編集者が勝手なロマンチシズムに浸っているだけに感じられてならない。
背景の無いファストファッションでも特に不満を持たない今の若者でなく、
DCや裏原の洗礼を受け、たかが洋服屋に行列をなす30代以降こそが
実際の読者層になりうることをこの数年に学んだのでは無かったのか?
(形式上、若者をターゲットにしていたとしても)
物欲にまみれないファッション雑誌なんてクソだ。
そんなテーマはブルータスでやればいい。

物欲にまみれないファッション雑誌なんてクソだ。

なるほど。最高の響きだ、言い得て妙である。

POPEYEは2012年6月号からリニューアルにおいて、ターゲットを30代~40代へとシフトし、私の周りのお洒落なおじさん達からは比較的、好意的な反応があったことを覚えている。そんな私といえば正直、ドンピシャではなく、リニューアルと言われてもそれほど機微に触れるものではなかった。むしろ中学・高校時代にはPOPEYEよりホッドドッグ・プレスを愛読していた。あの欲望むき出し感がたまらなく好きで、北方謙三先生の相談コーナーは若き日の自身の形成に一役を買った。(結局、ソープには行ってはいないが。)

そんなPOPEYE、2014年7月号の特集を思わず買ってしまった。ポートランド特集である。その翌月8月号はGo ADVENTURE!と題して、海外を旅する特集が組まれている。


それまでの極端に言えば「都市 = ニューヨーク」に重きを置いた編集方針から何かが違う。実際に8月号の特集巻頭ページにて以下の言葉が書かれている。

冒険へ出かけよう!
リニューアルしてポパイも2年ちょっと過ぎた。
2年前にはバタバタしていたなんだかぼんやりしていたけど、
最近、シティボーイについてあらためて考えてみた。
まず、どこに住んでいるとか、何を着ているかなんてのは、どうでもいい。
それよりも、大切なのは電車やバスで席を譲れたり、
周りの人に対してジェントルであること。
そして、常に好奇心と自分のスタイルを持ち合わせているか。
あとは、いつまでも冒険心を失わないこと。それが重要なんじゃないかな。
今回の特h数は”冒険”。果てしない憧れの旅から、近所の散歩まで、
シティボーイライフにはいつでも夢中になれる冒険が必要なんだ。
POPEYE (ポパイ) 2014年 08月号


これは消費と物欲に対する宣戦布告なのか、ただの青臭いロマンなのか。
ファッション雑誌が”何を着てるかなんてのは、どうでもいい”と言ってしまって大丈夫か。

その心情たるや理解できる。大垣に修学のため、移り住み、消費・生産・都市について考察する機会があり、解脱するかのように自身の消費の捉え方も幾分、変わったので。

とはいえ、この特集をフッション雑誌であるPOPEYEが組むのには少し違和感が拭えない。前述のレビューの通り、ファッション雑誌の主な広告先は最終的には物欲の促進なのだから。もっと言うと、ポートランド自体が、行き過ぎた新自由主義や消費至上主義に対する痛烈なアンチテーゼとして相対的に顕在化してきた都市である。だからポートランド的な文化や暮らし自体が既存の資本の論理と異なるアプローチであるにも関わらず、ステレオタイプの資本の論理に照らして紹介することが何より胡散臭い。

資本の論理について関連記事
80年代・渋谷の都市論からみるテラスハウス

それはGoogle MapのCMと同様の気持ち悪さを感じる。Googleに比べ、POPEYEのほうが本音と建前に対して、誠実な姿勢は見て取れるけれども、それでもどこか無理を感じざるを得ない。例えば、勢いよく表紙に記されたGo Adventure!、そしてその裏表紙は黒いスーツをビシッッ!!と着込んだEMPORIO ARMANI!!!っておかしい。笑  確信犯、だったら凄い。

改めて、ポートランドについて少し書いてみる。
この本が中々面白かったので併せて紹介しておく。


言われなくても行きたいよ!ポートランドについて

オレゴン州北西部マルトノマ郡にある都市で、人口は約60万人の中都市であるが、ニューヨークやカリフォルニア、中央政府といった、メインストリームと離れた場所においてインディペンデントな精神が確立され、その精神があってか高速道路拒否や1970年代に都市成長境界線といった政策を敢行、都市機能を管理しやすいサイズに留めた。西はサーフィン・キャンプ、東はスノーボードと自然を愉しむ環境があり、さらにカウンターカルチャーや北カリフォルニアにあったヒッピー文化が引き寄せられた。その街に住む人達の距離は物理的に近く、相互に情報や知識を助け合いながら織り交ぜていくことで、現在のコアヴァ・コーヒー・ロースターを始めとする、新鮮な地域の食材を活かした食文化や、アレックス・カルダーウッドが設立したエース・ホテルのような様々なクリエィティブに関わる人達が集まる場がうまれていった。現在、「小商い」というワードが各所で聞くことが多いが、ポートランドでは自宅のガレージや、安い物価や土地のおかげもあり、小規模でもいいから、自分たちが好きなことで生業をつくる「小商い」が既に至るところで実践されているのだ。ちなみに私は行ったことないので、これは全部受け売りの情報であることも追記しておく。

1979年の同年代に別の道をたどった都市としてデトロイトがある。自動車産業でアメリカの工場を一挙に引き受けたモーターシティと呼ばれたその都市は2013年7月に破綻し、現在では全米一治安が悪い街とされている。現在はOPEN GOVERNMENTなどで、一部では再起の動きもある。

破綻都市デトロイトをスタートアップが救う!コミュニティ再生の鍵は「民間」にある


この両者の都市の動きについてはジェイン・ジェイコブズや松戸市におけるMadcityについての考察も交えて広げたいが、話が逸れるのでここは次回に繰り越す。

現在、ポートランドが取り上げられる流れは、サブプライム危機以降のアメリカでの消費に対する「行き過ぎた時代」に対し、”より多く”から”よりよく”への変容を実践している場であるからなのは間違いない。その姿勢や手法は自分たちの手の届く範囲で、手に在る道具でまずやってみるというトリート・カウンターカルチャー的である、だからこそPOPEYEは叫ばずにはいられなかったのだろう。

タイムリーではあるが、8月1日の東京ポッド許可局でも「働く論」が展開されている。場所は違えでも言っていることは同じである。日常と非日常の境目がなくなってきているということ。




編集方針を変えさせたのは何か?

消費至上主義が陰りを見せる最中、広告がよく入っているなぁ、と感心する雑誌がある。「Spectator」である。


基本的に毎号、商業主義とはレイヤーが違う特集を行っていながらも、これほど広告が入っているのは凄い。さらにその掲載の仕方も潔く、200ページ弱ほどのページ数に対し、頭から20~30ページほどはBeams・URBAN RESEARCHのようなセレクトショップやアウトドアブランドが一気に掲載され、巻末の4ページほどに小さい企業やお店の広告枠がある。本文中には一切広告はない。よく特集間に紛れ込んでいるブランド服の紹介なども一切ない。男前だな。

ちなみに29号と30号では「ホール・アース・カタログ」に関する特集が2号続けて存分に掲載されている。「ホール・アース・カタログ」の説明は雑誌を買っていただくとして、ポートランドのルーツをたどっていけば、「ホール・アース・カタログ」の名前にたどり着くのだろう。だからこそ、エネルギー・環境・食・暮らすことについてあらゆる言説が飛び交う現在に、「ホール・アース・カタログ」に目をつけた「Spectator」に敬意を払いたくなる。そしてこの特集、熱量が高い。1970年~80年代当時に起きたアメリカでの出来事を羅列するのではなく、現在から観た視線というのを随所に織り込められている。しかも、日本は日本で「ホール・アース・カタログ」の文脈を「遊」や「別冊宝島」など、独自の発展を遂げたことも在り、その辺りも、うかがい知ることでき、日本の雑誌だからこそできた特集とも言える。IAMASにてこれからの創造のためのプラットフォームの勉強会があるけれども、この特集号はリファレンスとしていいと思う。

「Spectator」のこの特集は、POPEYE編集者たちにも与えたのではないだろうか。とは言え、「Spectator」と同じことをPOPEYEが繰り広げても面白くないので、ネクストレベルのCity Boy像をどう示すのか、前2号の反応は賛否両論といったところではあるので、果たしてこの後、どういった方針に進むのか、舵を切り戻すのか、それとも…… 愉しみにその動向を伺おう。


余談ではあるが、「Spectator」30号において、「ホール・アース・カタログ」に深く関わったひとりケビン・ケリーが、現在のカウンターカルチャーについての質問をされていた時に、ビットコインやオープンソースの世界にはカウンターカルチャーを感じるが、Makerのシーンには感じられない、っという発言があったのは興味深い。同意。

あと雑誌はやっぱり好きだな。「Rocekt magazine」とかZINE的な小規模でも、切り口がユニークなもので賑わってる。作りたい妄想もかなり膨らんでるんで、ちょっと進めていきます。
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